コダーイ・メソッドはわらべうたで人間を育てる!実践法やおすすめ教材を紹介
この記事では、コダーイ・メソッドと呼ばれる、子ども中心の音楽教育についてまとめています。
ハンガリーでは幼少期から音楽教育を大切にしています。それをメソッドとして確立したのが、ハンガリー生まれの作曲家コダーイ。
音楽教育は人間教育と考え、音楽によって子どもたちの力を引き出そうとしました。
私も合唱でコダーイの曲を歌ったことがあり、コダーイ・メソッドには興味津々!
音楽の勉強をまったくやってこなかった! という人も大丈夫。
とても簡単に、コダーイのエッセンスが取り入れられちゃう方法があるんです。
幼児期から良質な音楽に触れさせたいと思っている方、ぜひ参考になさってくださいね。
コダーイ・ゾルターンの教育思想「コダーイ・メソッド」
コダーイ・メソッドの名前の由来になっているコダーイ・ゾルターン(1882~1967年)は、ハンガリー出身の作曲家であり、教育家、言語学者、哲学者、そして音楽教育家。
彼は子どもをどのように見て、どんな教育を目指したのでしょうか?
コダーイ・メソッド成立の背景
コダーイが生きたハンガリーは、周囲を異民族に囲まれ、豊かな階層と貧しい階層の差が大きい社会でした。
父親は熱心なアマチュア音楽家で、コダーイも子どもの頃からヴァイオリンを学んだり聖歌隊で歌ったり曲を書いたりしたことはあったものの、系統的な音楽教育を受けることはほとんどありませんでした。
1900年、コダーイはブダペスト大学で現代語を学び始め、同時にブダペストのフランツ・リスト・アカデミーで音楽を学びます。
1907年には音楽アカデミーの教授に就任し、子どもたちが歌うのに適した歌を作ることにも力を入れました。
コダーイは子どもが大好きで、しばしば保育園や幼稚園を訪れ、子どもたちがどんな歌を歌っているかを観察していました。そして、子どもや村のお年寄りからさまざまな歌を集め、「ハンガリーのメロディー」として国に示したのです。
また、ハンガリーのわらべうた、スロバキアのわらべうた、ドイツやルーマニアのわらべうたなどを研究し、その旋律やリズム、体の動きが子どもの心に良い影響を与えるとし、成果としてまとめました。
コダーイ・メソッドの特徴
コダーイ・メソッドの思想
音楽を通して、音楽的能力を向上させるとともに、調和のとれた人間を育成する
音楽によって子どものさまざまな能力を引き出すこと目指すのが、コダーイ・メソッドです。
コダーイが1941年に発表した論文『保育園の音楽』の中で、音楽の持つ力について語っているところがあるのでご紹介します。
- リズムは注意力・集中力・決断性・神経を統御する能力を発達させる。
- 旋律は感覚の世界の扉を開く鍵である。
- 強弱の諸段階と音色はわたしたちの聴器官感度を高める。
- 歌をうたうことは、からだの多様な部分の運動を意味する。
- 母国語能力を育てる。
リズムで神経を発達、歌うことで運動、言葉も育てる……
音楽能力に特化させるだけではなく、子どもを多面的に(いろいろな面で)育てるためのものということですね。
コダーイ・メソッドは音楽家を育てるための早期英才教育というわけではないことが分かります。
楽しく歌いながら、感性とか言葉を伸ばすんだね!
ちなみに、コダーイ・メソッドという言葉はコダーイ自身が提唱したものではなく、彼を支持する人や彼が執筆した論文の内容をして呼ばれているそうです。
コダーイ・システム、コダーイ・アプローチなどとも呼ばれて、世界各国の音楽教育現場で扱われています。
コダーイ・メソッドの具体的な教育法
コダーイ・メソッドで行われる教育の特徴は、次の通りです。
- 歌唱
- ソルフェージュ
- 五音音階(ペンタトニック)
- わらべうた
歌唱
コダーイ・メソッドで一番重要視されているのが、「声に出してうたうこと」です。
“より深く、より高度な音楽的教養は、うたうという基礎の上に成り立つ”
とコダーイが言っているように、歌うことこそがコダーイ・メソッドの根幹ともいえるでしょう。
通常、幼稚園や保育園ではピアノを伴奏に童謡を歌うと思います。ですが、コダーイ・メソッドではピアノの伴奏をつけず、大人の歌唱に倣って歌います。
平均律(※)によるピアノを頼りにしては、和声の際に響きが濁ってしまうからです。
子どもが自分の調子で正しく、周りとも調和した音程で歌うことを目標にしています。
平均律はオクターブを数学的に12等分したもの。
ピアノのような楽器は平均的に区切っているので、和声の際(音を合わせたとき)に濁った音に聴こえることがあります。
人の声との調和を重視するんだね!
幼児期の音楽教育というと、ピアノに合った正確な音がわかる「絶対音感」訓練を想像しがち。
コダーイ・メソッドでは、楽器に依存せずアカペラで耳を育てるのね。
楽器を使うこともありますが、このように前提条件を付けています。
“少なくともリズムと階名で流暢に楽譜を読むことができるまでは、楽器に触れるべきではない。”
楽器に触れるのは、楽譜を読めるようになったあとなんですね。
ソルフェージュ
ソルフェージュは、楽譜を見て歌ったり、聴いた音を楽譜に書き写す、いわゆる音楽の読み書きです。
コダーイ・メソッドでは、ソルフェージュも重要視しています。
楽譜を読むための練習として、幼児にも分かりやすいレター・サイン(文字譜)やハンド・サインを使うのが特徴です。
ソルフェージュで用いるハンド・サイン
また、調が変わってもドの位置を移動させて「ドレミファソラシド」で旋律をうたいやすくすることができる「移動ド」で音を読む訓練も取り入れていました。
サインの音階でも移動ドを利用しています。
五音音階(ペンタトニック)
ペンタトニックは、半音を含まない5音。コダーイが出版した音楽教育のための作品は、ペンタトニックが特徴となっています。
その理由は、子どもに最適な音楽だと提唱しているわらべうたが狭い音域でできていてペンタトニックの中で無理なく歌えるから。
ペンタトニックの5つの音を捉えることは、“清潔に歌うことがやさしい”といいます。
「清潔」という言葉はよくコダーイが用いるけれど、純正律で美しく歌えるということね。
ペンタトニックを訓練することで、のちに上からでも下からでもラクに半音をはめ込むことができるようになるそうです。
ちなみに、5つの音以外の半音を締め出しているわけではありません。
あくまで5音から始めることが、その後の音楽の習得に効率的であると主張しているのです。
我が家にも、プレイミーの「パットベル」というペンタトニック(レミソラシ)の楽器があります。半音に妨げられることがなく、ポーンと跳躍する音がとても澄んで聴こえ、音感が育つと感じました。
わらべうた
コダーイが子どもに最適な音楽だと提唱したのが、「わらべうた」。私たちが住む日本だと、「いっぽんばし こちょこちょ」や「あんたがたどこさ」などがそうです。
わらべうたの良さってたくさんあるんですよ。
- 母国語である
- 自然にリズムを身につけられる
- 音域が狭い
- 半音がない
- 遊びながらコミュニケーションもできる
わらべうたはいわば、音楽の母国語。わらべうたほど、その国のメロディーが自然に一体となっているものはありません。
生まれたばかりの子どもに母親が最初に話しかける言葉が母国語であるのと同じように、子どもに歌って聴かせる曲も、その国で古くから歌われ、伝承されてきた「わらべうた」であるべきだとコダーイは考えました。
わらべうたには動きを伴った遊びがついています。子どもたちは遊びながら、自然に音楽の中に流れるリズム(拍感)を身につけていくのです。
また、音域が狭い、半音がないといった点で、子どもにとって無理なく歌えます。
さらに、わらべうたで遊ぶことはコミュニケーションにも役立ちます。コダーイはわらべうたを“人間同士の結びつき、生きる喜びを高めてくれるもの”としています。
乳児期にわらべうたを聴き、幼児期にわらべうたで遊んだ子は、大人と子供の関係、子ども同士の関係を自然に学んでいくのです。
まさに生きるための土台になるのね!
コダーイ・メソッドのわらべうた
おうちでもコダーイ・メソッドを取り入れてみたいというパパママ向けに、日本語のわらべうたをいくつかご紹介します。
お馴染みのものもあるかもしれませんね!
赤ちゃんには歌ってあげてくださいね。
あぶくたった にえたった
いっぽんばし こちょこちょ
あんたがたどこさ
でんでらりゅうば
なんとなく知っている歌ばかりだ~!
そうなんです。
ずいずいずっころばしや、むすんでひらいて などもそうですよ。
小さいころに遊んだ歌を覚えていますか?
思い出しながらいろいろやってみてください♪
▼『くもんのうた200えほん』にも、たくさんの手遊び歌が載っていておすすめ。内容をご紹介しています。
手先を使うので、器用さアップにもつながりそうですよね。
コダーイ・メソッドを取り入れている幼稚園・保育園
コダーイ・メソッドに基づいたわらべうた保育は、日本の幼保施設でも取り入れられています。
コダーイ保育が受けられる全国の施設情報をまとめてみました。
名前 | 住所 | 園の特色がわかるページ |
---|---|---|
かやの実保育園 | 東京都羽村市 | 基本理念 |
みたか小鳥の森保育園 | 東京都三鷹市 | 保育園の生活 |
社会福祉法人 富士育英福祉会 すみれ認定こども園 | 静岡県富士市 | コダーイ保育 |
松の実保育園 | 千葉県流山市 | 保育内容 |
おもと保育園 | 兵庫県尼崎市 | 私たちの保育 |
青桐保育園(あおぎりほいくえん) | 大阪府枚方市 | 園の概要 |
社会福祉法人萬年青友の会 やまぼうし保育園 | 兵庫県宝塚市 | 私たちの保育 |
コダーイの生涯
ここで、コダーイ・メソッドが生まれた背景として、彼の生涯についてまとめておきます。
コダーイ・ゾルターン(1882~1967)
ハンガリー出身の作曲家であり、教育家、言語学者、哲学者、そして音楽教育家。
1882年12月16日、ハンガリーのケチケメートに生まれ、幼少期をガランタとナジソンバト(現在のスロバキアのトルナヴァ)で過ごす。
父親は熱心なアマチュア音楽家で、コダーイは子どもの頃からヴァイオリンを学ぶ。聖歌隊で歌ったり曲を書いたりしたことはあったものの、系統的な音楽教育を受けることはほとんどなかったそう。
1900年、ブダペスト大学で現代語を学び始め、同時にブダペストのフランツ・リスト・アカデミーで音楽を学ぶ。
1907年、音楽アカデミーの教授に就任し、子どもたちが歌うのに適した歌を作ることにも力を入れる。
このころの代表作には「100の小マーチ」や「333の読み方練習曲」などがある。
1925年、児童向け合唱 「ごらん、ジプシーがチーズを食べている」を作曲したことをきっかけに、幼児音楽教育の分野にさらに興味を持つ。
1941年、論文『保育園における音楽』を発表し、子どもの音楽教育の変革を訴えた。
1950年、作曲家のバルトークとともにハンガリー民謡の採集をはじめ、民謡集の出版も手掛ける。
その後、音楽一般小学校という彼の理想とした学校が設立され、現在も世界各国でその理念が生き続けている。
コダーイ・メソッドがよく分かる本・著書
もっとコダーイ・メソッドのことが知りたい、おうちでわらべうたを取り入れてみたい、と思ったときに役立つ本をご紹介します。
『コダーイ・システムとは何か』
コダーイ・メソッドの入門書
コダーイの理論を実際に保育園教育に取り入れた著者たちによる、コダーイ・(システム)メソッドの入門書です。
上記でご紹介したハンド・サインなども分かりやすく図で紹介されています。
古い本ということで取り扱いショップはほとんどないのですが、Amazonと全音さんで売られていましたのでご案内します。
図書館で探してみるのもアリですね!
『おてほんのうたがながれるてあそびうたえほん』
手遊び歌の宝庫
なんとお手本の歌が流れ、カラオケのように歌える絵本です。
「てってのねずみ」や「むすんでひらいて」など、親子で楽しめる定番のわらべうた22曲入り。お子さんと一緒に楽しく歌いながら遊べる、魅力的な絵本です。
気軽に取り入れてみたいという方にとってもおすすめです!
『「わらべうた」で子育て 入門編』
コダーイで子育てをしたいパパママ向け
コダーイで子育てをしたいと思うのなら、この一冊。
赤ちゃんへの声掛けの仕方や、お世話のときの会話など。わらべうたを活かした子育ての知恵がたくさんつまっています。
特に、岩手県遠野市のわらべうた伝承者である阿部ヤヱさんの豊富な経験と知恵が詰まっており、古くから伝わるわらべうたが、現代の子育てにも活かせることを教えてくれます。
わらべうたの歴史や文化的な背景についても触れられており、わらべうたに対する理解を深めることができますよ。
『わらべうたであそぼう―乳児のあそび・うた・ごろあわせ』
赤ちゃんと楽しむわらべうた
コダーイ芸術教育研究所による、わらべうたをまとめた本です。具体的なわらべうたと楽譜、その遊び方、歌い方が紹介されているので、すぐに実践できます。
乳児向けということで、赤ちゃんと楽しく遊びたい方にぴったりです。
『いっしょにあそぼうわらべうた 3・4歳児クラス編』
遊びの幅が広がる一冊
こちらは年少さんからのわらべうた。鬼ごっこや役割分担の遊びなど、子どもたちが集団で楽しめるようなわらべうたが多数紹介されています。
自分で歌いたい、おともだちと一緒に歌ってみたい年頃の子にぴったりです。
コダーイ・メソッドとは|まとめ
コダーイ・メソッドは、ハンガリーの作曲家コダーイ・ゾルターンによる子ども中心の音楽教育法。彼は音楽を通じて子どもの心の健康と全人的な成長を目指しました。
特にわらべうたは「音楽の母国語」として重視され、子どもたちが自然にリズム感やメロディーを身につけ、社会性や創造力を育む重要な手段とされています。
音楽教育というと難しいと感じるかもしれませんが、わらべうたから始めてみると、意外と簡単で親しみやすいと感じるでしょう。
コダーイ・メソッドを取り入れた教育は、今も世界各国で受け継がれ、多くの子どもたちに豊かな学びと成長の機会を提供しています。
わらべうたを通じて、楽しく豊かな子育てを実践してみてはいかがでしょうか。
参考文献
- 『コダーイ・ゾルターンの教育思想と実践』全音楽譜出版社
- 月刊クーヨン2008年9月号増刊『のびのび子育て』
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